京都大学大学院医学研究科人間健康科学専攻 家庭看護講座 超重症児の「子育て」を支えるための在宅療養支援

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プロジェクト

アイトラッカーによる重症心身障がい児の意思解明に基づくコミュニケーション支援法開発

現在、我が国は、少子高齢化に伴い、医療の進歩による医療依存度の高い重症・病弱児の急増という課題に直面しています。その背景には、小児医療の急速な進歩があります。すなわち日本は新生児の低い死亡率、世界一の救命率を誇る子どもが死なない国になりました(WHO,2011)。また、低出生体重児の出生数は年々増加しています。必然的に障害児数が増加し、その結果、成人や高齢者以上に、資源の乏しい地域社会に医療機器と医療的なケアが必要な子どもが急速に増えています。そのような現状において、医療と福祉、教育が協働し、子どもの命を守りつつ、意思疎通力(コミュニケーション力)を育むための支援策の開発が急がれます。平成24 年度の9月に人工呼吸管理を要する18 歳未満の重度身体障がい児保護者を対象に意思伝達に関する全国の実態調査を実施し、コミュニケーション力向上に対する多くの支援ニーズが判明しました(鈴木, 2013)。

一方、欧米では、アイトラッキングを用いた研究が進んでいて、以下の3点が明らかになっています。
(1)言語処理において眼球運動は、その時点で注意を向けている箇所と非常に密接に関係し、言語研究における価値のあるデータを提供する、(2)言語能力は、予め定義された言語および視覚の提示刺激に対する眼球運動の追跡と記録によって評価する、(3)様々な視覚イメージや他の刺激材料(ビデオ、アニメーションまたはテキストのような)を見る眼球運動を計測することによって、あるいは選好注視テストでの入力手段としても使われ、反応時間と正答率は最もよく用いるパフォーマンスの評価基準である、ことなどが報告されています。アイトラッキングの技術は、企業をはじめ医療や心理学など多くの分野で注目されています。先進的な研究を行っているイギリスのカーディフ大学視覚科学部では、60Hz のアイトラッカーを用い、眼球運動と眼振のような眼球運動欠損への理解を深め、臨床状況での疾患の診断法を開発し、2010 年には子どもの眼球運動特性の臨床評価に関する新たな知見を得ました(Dunn, M.et al. 2015)。

日本でも乳児期早期の赤ちゃんの認知機能を評価するために、アイトラッカーを用いた研究は行われています(Okumura,et al., 2016)。しかしながら、重症心身障がい児(者)を対象とした研究では、アイトラッキング技術を活用した意思伝達装置(Tobii 社、マイトビー)による視線の動きを観察した報告(下川,2014)しかなく、重症児の特徴的な注視点を特定し、支援法を考案したものはありません。私たちのこれまでの研究経過からは、重症心身障がい児について、アニメ動画を見る視線の動きは目視では観察することができません。アイトラッカー技術を活用した装置(30Hz)では、数個の注視点や注目箇所が可視化されています(鈴木,2016)。

そこで、「目は口ほどにものをいう」と言われているが、重症児は、標的を見た時に視線は、どのような動きをするのか?(どんな見方をするのか?)という問いのもと、従来よりも正確度、精度が高く、安全性が保障された、より信頼性の高い注視点データを取得できる600Hz のアイトラッカーを用いて得たデータを、健常児(者)や他の身体障がい児(者)のデータとの比較により、重症児の意思疎通のあり様の解明と支援法の開発をするという着想に至りました。