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プロジェクト

重度身体障がい児に対する学校以外の遠隔学習支援方法の模索

教育関係者のみなさま

遠隔学習支援の概要

 現状、重度障がい児向けの小中学校での学習では障がいの程度により時間がかかってしまい、十分に学習をすることが難しいです。そのため小中学校以外での学習支援も必要です。しかしながら、その支援体制は整備されていません。今回、重度身体障がい児への支援モデルとして、家族や介護者の協力を得ながら、脊髄性筋萎縮症の児童(中学2年生)への学習支援をオンラインで実施しました。

遠隔学習支援モデル

学習を受ける児童の様子

遠隔学習支援を受けている図

支援者から見た学習の様子

遠隔学習支援を受けている図
児童は視覚障害もあるため、児童は眼鏡を着用し、支援内で使用する文字は可能な限り大きくし、オンラインでも円滑な支援が可能になるよう工夫しました。
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遠隔学習支援モデルの詳細

背景

 障がい児に対する特別支援教育では、個々人の障がいの状態に応じて、自身の能力の範囲内で自立と社会参加に必要な力を培うことを目指した適切な指導や支援を行うことが求められています(文部科学省. 2020)。しかしながら、小中学校義務教育課程での教育時間内では限定的な学習に留まってしまい、障がい児の可能性を最大限に伸ばすことが難しいです。健常児においては小中学校での学習に加え、学習塾を始めとした学習支援体制が充実している一方で、重度障がい児向けの小中学校以外での学習支援体制は整備されていません。また、障がいの程度や症状に基づく教育方法の実例がないことから、家族や介護者の単位で障がい児の教育を行うことは困難と考えられます。そのため、まずはモデルとして学習支援方法を模索する必要があります。

学習支援モデル

 重度身体障がい児への支援モデルとして、家族や介護者の協力を得ながら、脊髄性筋萎縮症の児童(中学2年生)への学習支援をオンラインで実施しました。本児童は他者との意思疎通を視線で行っていたので、支援の方法に視線を用いることにしました。
 視線による意思疎通を行いながらの学習は健常児と比べ多くの時間がかかります。漢字学習を例に挙げると、小学生の間に小学2年生までの漢字を学んだ後、中学生になってからは学校での時間の都合上新たな漢字は学んでいませんでした。さらに重度の身体障がいにより児童自身が手を動かして漢字練習をすることが難しいので、一度学んでも定着が困難という問題があった。このため学習開始前は漢字を読むことができていませんでした。
 漢字を含む文章を読むことができるようになることは社会参加において重要です。このため、今回の支援では漢字学習支援を行うこととしました。学習は継続して繰り返し行うことが効果的であり、週1回、約10ヶ月かけて反復しながら漢字教育を継続して行っています。
 実際の漢字学習内容を図1に示します。まず、漢字イラストカードを用いて漢字の読みを想像してもらい、漢字の表記とその概念を結びつけることを行いました。次に前回までの支援時や宿題で学んだ漢字イラストカードの復習を行いました。さらに、学んだ漢字の定着を促すために、実際に習った漢字を実生活で読み書きする機会として手紙のやりとりも行いました。手紙は視線とスイッチを用いた文字入力により行い、児童が楽しんで取り組むことができました。10ヶ月の支援を終えた成績として、小学1年生の復習問題では88%正解率、小学2年生の復習問題では73%正解率を達成できました。さらに、読める漢字が増えたことで、児童が喜ぶ姿がたくさん見られるようになりました。
 本支援モデルでは、視線・スイッチの両方用いることのできる入力装置を使用しました(図2)。この入力装置は、導入コストは要するものの、その後の学習はオンラインで実施が可能であり、また手紙のやりとりを行うなど、社会生活で必要な活動も行うことができます。
本支援モデルが重度身体障がい児への漢字学習や、withコロナ時代の重度身体障がい児に対する遠隔学習支援のあり方の一助となれば幸いです。

使用機器の紹介

使用機器1と2

ピエゾニューマティックセンサースイッチ PPSスイッチ
・2つの方法で信号を出力可能
・(左)挟んだ風船内の空気圧の変化を感知
・(右)「ひずみ」や「ゆがみ」を感知

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使用機器3

miyasuku EyeConSW(視線入力装置とソフトウェア)
・どこを見ているかをにより視覚化
・視線によるキーボードでの文字入力が可能

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学習支援成果

児童が書いた実際の手紙 (現状、漢字変換はご家族と実施)

2020年7月6日(月曜日)の手紙
昨日の夜「リトル ミス サンシャイン」という映画を観ました。
前も観たのですが、あまり覚えていませんでした。
お父さんがこの映画が好きだそうです。
この映画は、家族の話ですがいろんなことが起きてしまいます。
お父さんがなにかしっぱいをしたり、おじいさんがねてるうちに死んじゃったり、お兄さんが家族がやだって言っておこったり。いろいろ起きてました。
私の家族は、イベントをする家族だから楽しい家族ですよ。けんかもするけどね。
ちなみに岡本先生は、どんな家族ですか?おしえてください。
映画のはなしにもどりましてこの家族はいそがしい家族だなっておもいました。
今回は観てとても面白かったですまたいつか観たいです。
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児童とご家族の声

児童の声(視線での文字入力による) 

漢字学習を始めてみて
わたしは漢字を教えてもらうようになって、小学校でならったのを思い出しました。その時は漢字を使わなかったのでわすれていましたが、先生がていねいにやさしく漢字を教えてくれるのでとてもうれしいです。そしてよめる文字がふえてきたのもとてもうれしいです。これからも漢字をがんばって勉強していきたいです。
生徒写真
生徒写真

ご家族の声

生徒と家族写真
生徒と家族写真
漢字学習を依頼しようと思ったきっかけ
 以前は「漢字を読める方が良い」という視点がなく、周りが読むということで解決できると思っていた。しかし中学生になり、担任が授業や宿題での漢字を含む文章を、そばで見ていて「あ、読めないや。」と気づいた。しかし学校生活では漢字を学ぶ時間が取れないこともわかりどうにかしなくてはと思った。書けない歌子には記憶していく学習法だとするならば復習もしていくことを思うと大変な量であり、またどのように定着させるのか、(本人がやる気を保つことかつ、いつの間にか学習することをやめてしまわないように)親が教えるのは最適ではないなと感じており、他者の介入が上にあげた心配点を避けられるのではないかと考えていた。
遠隔漢字学習支援モデルについて感じること
 手探りながらの遠隔漢字学習がはじまり、読めないとき、ヒントとなるイラストや前後で読めるところから正解を着想するという思考が、これまでになかったことなので身につくと漢字に限らずよいなと思っている。歌子の周りでの会話のやり取りを注意深く聞いてみようと思うことであったり、周りに見える状況から何だろうと考えてみたりという探求心や自分で納得する解決に至れることは歌子が動けず声をだせず生きていくうえでQOLがあがることにつながる。また実際に手紙を書くことで学んだ漢字を使う経験は、書けない歌子にとっての漢字の定着方法としてよい方法であると感じている。
家族からみた学習による子の変化とご家族の気持ち
 歌子は読めるものが増えたことで、これまでなんでもかんでも「読んでもらえる」ことが当たり前であったところから、読んでみるという気持ちになれた。実際読めるものが増えてきて、こちらがその内容について質問すると読み取れたことが伝わり「褒める」ということが増えたことも自己肯定感につながっていると思う。そして喜んでいる。
 そもそもの病弱虚弱児(体調管理が難しくすぐ体調を崩す)かつ医療的ケア児として毎日気にかけることが多く、ケアに一日の多くの時間をかけている歌子が、日々元気に在宅生活を続けられることやましてや学校に行けていることへ喜びを感じている私だったが、毎週の漢字学習を通して学力が定着しているさまを見ることができたことは、子を持つ親としてとても嬉しく思える。
遠隔での漢字学習をすることでの兄弟への波及効果
そしてその姿はとっくに歌子の学力をすべてにおいて追い越しているきょうだいは言葉にこそしないが支援級、支援校の歌子は勉強をしていない、勉強ができないと少なからず思っていただろうから、その歌子が家で一時間強、勉強に集中している姿が家庭にて垣間見られていることはとてもよいことだと確信しています。
生徒と家族写真
生徒と家族写真

本活動は、2017-2020年度科学研究費補助金基盤(B)による助成を受けて実施しました。
ご質問のある方は、E-mail:suzuki.machiko.28e@st.kyoto-u.ac.jp までご連絡ください。
お待ちしております。

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